東京高等裁判所 昭和47年(行ケ)75号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由(その引用する拒絶理由通知書記載の拒絶理由を含む。)の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決は、本願発明が引用例の記載以外に更に規定している構成をもつてしては、引用例の方法とは区別することはできないとし、また、本願発明と引用例との間に存する他の差異を看過したため、本願発明は引用例記載の方法と同一の発明であるとした点において判断を誤つた違法がある旨主張するが、この主張は、以下に説示するとおり、理由がないものといわざるをえない。すなわち、本願発明の「粒子の床を閉じた径路を画いて循環する状態」に維持する構成については、当事者間に争いのない本願発明の要旨によれば、右のように床を維持することは「周知の要領」で行うものであることが明らかであるから、引用例の方法においても、当事者間に争いのないその記載内容から認められるように、ガス流によつて懸濁状態に維持された粒状物質の床がある以上、更に本願発明の前記の構成について記載がないからといつて、本願発明と引用例の方法とをこの点において区別することができるとはいえない。次に、本願発明の流動性物質の噴出及びその流速に関する構成については、前掲本願発明の要旨によれば、右噴出の点について、「ガス流と一緒に底部から頂部へ向つて流動性物質を噴出させ」と規定するのみであり、右のほか流動性物質の噴出口の位置及び噴出の方法につき限定がなく、しかも、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三の記載に徴すれば、空気等の負圧を利用して液体を霧化するための二流体ノズル方式が本願出願当時周知の技術であつたことが認められるから、本願発明の前記の規定のみでは、本願発明における流動性物質の噴出がガス流の負圧によらないものであると断ずることはできない。このように、本願発明において、流動性物質がガス流の負圧による場合を含むと認めざるをえない以上、流体をガス流の負圧によつて噴出する方法においては、ガス流の流速は流体の輸送速度よりも高いのが通常であるから(それが本願出願当時の周知事項であることは原告の認めて争わないところである。)、本願発明の「該ガス流の速度は流動性物質の速度より実質的に高いものとする」との構成は、技術上当然のことを現わすものにすぎないというべく、一方、当事者間に争いのない引用例の記載内容及び成立に争いのない甲第五号証(引用例)によれば、引用例の方法においては、流動性物質は噴霧して供給されるものであるから、本願発明の流動性物質の噴出及びその流速に関する構成をもつてしては、本願発明と引用例の方法とを区別することはできないものというべきである。原告は、本願明細書の発明の詳細な説明の項の「ガスは管4を通して送風器により供給し、且つ乾燥すべき流動性物質をポンプにより管6を通して強制的に送り出す。」との記載及びガスが例えば三〇~五〇m/秒、流動性物質の速度はその<省略>から<省略>である旨の記載は、本願発明における「ガス流と一緒に底部から頂部へ向つて流動性物質を噴出させ」る構成が、流動性物質をガス流の負圧によつて送り込むものでないことの裏付けとなる旨主張するが、右記載及び本願の図面が本願発明の一実施態様にすぎないことは、成立に争いのない甲第二号証及び第三号証(本願願書及び手続補正書)の明細書全体の記載から明らかであるから、原告主張の根拠とすることはできず、他に前認定を覆えすに足りる証拠はない。更に、前掲甲第二号証及び第三号証によれば、その特許請求の範囲の項には、形成中の粒子と噴入される流動性物質とが同一の物質である旨の記載はなく、また、発明の詳細な説明の項の記載からも、必ずしも同一の物質でなければならないものとは認められないから、本願発明においては、形成中の粒子と噴入される流動性物質とが同一の物質に限られるものではなく、一方、引用例の方法につき、原告は、粒状物質と溶液とは異質の物質であると主張し、被告も、また、引用例の方法において異質の物質である場合があることは争わないところであるから、本願発明がこの点において引用例と相違する旨の原告の主張が理由がないことは明らかである。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却する。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
ガス流によつて懸濁状態に維持された形成中の粒子の床の中に、ペースト、スラリー、溶液の如く水の蒸発により硬化しうる流動性物質を噴入することによつて乾燥と同時に粒化する方法において、前記の粒子の床を周知の要領でガス流によつて閉じた径路を画いて循環する状態に維持し、更にガス流と一緒に底部から頂部へ向つて流動性物質を噴出させ、しかも該ガス流の速度は流動性物質の速度より実質的に高いものとすることを特徴とする、水の蒸発により硬化しうる流動性物質を乾燥と同時に粒化する方法。